プロローグ

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『おはようございます、朝のニュースをお伝えします。本日はあの【同時多発事件】からはや十年が経ちました。その中で亡くなられた多くの命を忘れず、明日への希望を持って進んでいくこととします。さて』  テレビが切り替わり、子供向けの特撮ドラマが流れ出す。報道の中で誤魔化された同時多発事件、正確には【同時多発孤児事件】は、当時から現在に至るまで未だ解明されていない、謎そのもののことだ。 突如、各県、各都市の親が消失するという怪奇が起きた。残された子供の当時の年齢が六歳から十歳の間であるということ以外共通点はなく、北は北海道から南は沖縄まで日本全国の様々な場所で同時刻に一斉に子供だけを残し親が消えたのだ。 当時の子供たちのパニックに陥った状態は各報道局が持っているが重く細かい規制がかかっているという。事件を忘れずというが、これだけでは事件の内容がほとんど知らせられないまま、いつか忘れられていくのだろう。 直接的な被害にあった孤児たちは政府の手厚い加護を受け、保護された子供たちは今も普通の子供として生かされている。また、消えた大人たちを雇っていた企業・団体にも政府から多額の援助金が出ていた。 一種の口止め料だろうと、各マスコミは政府と事件の関連性を探ったが、十年経った今もそれらが出てくることはなかった。  もう一つ、同時多発孤児と同じ時期に発生した怪奇がある。 『杏奈(あんな)、そろそろ出る時間だ』 「ありがとう、サイ。大丈夫だからちょっと外で待ってて」  白鳥(しらとり)杏奈(あんな)は、戦争を取り扱っていた子供向け特撮を消すと、カップに残った紅茶を一気に飲み干す。肩まで伸びた茶色い髪を後ろで縛ると小物入れを持って自室を出る。すでに玄関先で待っていた黒羽(くろばね)桃矢(とうや)は欠伸を一つこぼすとぼさっとした頭を掻きながらだるそうにしていた。 「遅い」 「いや、出発予定までまだ五分くらい早いはずなんだけど」 「その時計止まってるぞ」 「?つき!サイが教えてくれたから絶対あってるよ」 「精霊だって間違えるだろ」 「そんなこと・・・ないはず」  ちょっと迷ってスマホを取り出してみるとやっぱり時間はあっていた。桃矢を見ると笑っていた。やっぱり嘘だった。
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