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精霊は同時多発孤児同様、十年前に発生した、やはり怪奇と呼ぶべき現象だ。孤児となった子供たちの中に可視化できるようになった者たちがいたため発見された。
見える子供たちが言うには、「あの子と一緒にいる」というのだ。孤児となった三分の一が『見えた』ため、週刊誌では『彼らは黄泉の国から戻ってきた』という触れ込みや憑いていると言われた人たちは気味悪がり、お祓いや宗教にのめり込むなど社会現象を起こした。
二年後、見える者は『ファクシパイダー』と呼ばれ、政府機関に登録することで、保護されることとなった。また、ファクシパイダーが見つけた憑かれていて、見えない者を『ディスパイダー』と呼ばれるようになった。
ファクシパイダーは孤児たち以外に存在しなかったが、ディスパイダーは孤児とは関係ない一般人の中にも多くいた。このため、昔から呼ばれる守護霊の類とされ、いつしかそれを『精霊』と呼ぶようになった。
桃矢はディスパイダー、つまり見えないけど憑かれている。杏奈はファクシパイダー、憑かれそして見える者である。彼らは十年前、静岡で見つかった孤児のうちの一組で中学生になるまで政府機関が運営する施設で育った。その施設を事情で出てから二人で共同生活をしている。
「おい、早くいくぞ」
「誰のせいだよ!」
勝手に歩き出す桃矢の後ろを慌てて追いかける。桃矢の傍には彼に憑く一人の少女がいる。サイ以外で初めて見た精霊で、桃矢には見えない。剣を携え、白き鎧に身を包む凛とした少女。彼女の名はレイ、サイの妹で杏奈の親友である。
「で、今日はどこだ」
『今日は二丁目の喫茶店だ』
「だってさ」
「だってさ、じゃねえよ。俺には聞こえない」
見えないということは聞こえないってことだ。サイの声もレイの声も桃矢には届かない。ちょっと寂しそうなレイと特に気にしていないサイの顔を横目にサイの言う情報を復唱して桃矢に伝える。二丁目の喫茶店、サイがそこで気配を感じたのは三日前だった。
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