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刑事さんよう、わかりますよね。俺には無理だって」
「だがアリバイが無いのは君だけだ。君にしか犯行はできない」
「だから物理的に無理だってば。どうやってビルの五階から飛び降りて逃走なんて人間離れした行動とれるっていうんですか」
「精霊の力なら可能だろう」
またそれかと、八木(やぎ)真治(しんじ)はうんざりしながら聞き流した。精霊が世に蔓延るようになった頃から超常現象的事案が多くなり警察の捜査もオカルトじみた要素が強くなってきた。真治もファクシパイダー登録をしている都合上、今回たまたま事件現場にいて、たまたま彼だけがアリバイもなく、たまたまファクシパイダーだったことから容疑者としてお巡りさんのご厄介になっていた。
「俺、機関に登録している正式なファクシパイダーっすよ?わざわざ精霊使って悪事働きませんって」
「君の前科、よもや忘れたとは言わせないぞ」
「ちょっとしたいたずらじゃないっすか。確かに精霊の力試したくって遊んだことがあるのは認めますけど人を殺したりなんてできないっす」
真治は若干鳴き声で語る。昔、精霊の力を面白半分に使ってちょこっと世間様に迷惑をかけたことがあるだけだ。自動販売機を3つ同時に壊したり、遠くにあるマンホールの蓋を消してみたり、ちょっとしたいたずらだ。
「君のいたずらが度を越えていたことは政府も肝を冷やしていた。ファクシパイダー資格も君の場合、権利ではなく監視に近い」
「だったら余計に無理っすよ。俺ができる精霊の力の行使には制限が掛かってるんだから」
「じゃあ他にできる者がいたのか」
「それを調べるのが警察でしょうが」
そういうと目の前の刑事さんは無言で睨みつけてきた。彼の、いや彼らの中ですでに真治を犯人と確定し、一刻も早くこの事件を終わらせたいと考えているのだろう。しかし、精霊がやったという証拠がない以上彼を逮捕することはできない。警察が現在、真治を逮捕できるのは自白だけである。
わかりました、俺の容疑を晴らせばいいんでしょう。なんなら真犯人も見つけてやりますよ。それとも、任意同行の一般人を令状もなしにこれ以上拘束して大丈夫ですか」
「足元を見ているつもりか。ならこちらも監視を一人つける。真犯人とやらをせいぜい捕まえて見せろ」
売り言葉に買い言葉で容疑者から探偵にジョブチェンジしてしまった。八木真治十七歳、監視つきのフリーター探偵の誕生だ。
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