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 普段の鉄面皮を装う必要はない。紫外線を完全に遮断する黒いバイザーの下では、どのような表情をしようと相手には見えないからだ。  誰もが身につけるのを嫌がる重い防護服とヘルメットは、子供の頃に歴史資料映像で観た太古の戦士の鎧に似ている。  だがセロにとっては、女性という身体的な特徴を晒す必要のない気の休まる装備だった。  嫌がらせというより、女好きの性分から事あるごとに女性であることを揶揄するロドは、過去の失態で右手を失ったとはいえ腕の良い爆発物専門家だ。軽口にも既に慣れ、苛立つこともない。  ロドが左手で器用に受け止めた起爆装置を手際よくTNAZ化合物にセットしたのを見届け、セロは岩の後方に待機している装甲兵員輸送車に乗り込む。 「爆破」  駆け込んできたロドがドアを閉めた瞬間、くぐもった爆発音と共に装甲車が大きく揺らいだ。  細かく砕かれた岩の破片が降り注ぎ、バラバラと雨の当たるような音をたてる。2、3度、大きな音と共に振動が伝わってきたが、車体に損傷を与えるほどではないだろう。 「ひゅう、危ねぇトコだった。隊長、タイミング早すぎですぜ」 「貴様の足が遅いんだよ。先を急ぐぞ」  女扱いをしたロドに少しの報復を果たしたセロは、心中ほくそ笑んでヘルメットを脱いだ。     
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