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 全長七・五メートル、車幅三メートル。機関砲一台、機銃二台で武装した搭乗員七名用・8輪装甲兵員輸送車は、車体を大きくバウンドさせながら岩を乗り越え目的地に向かっていた。 役立たずのサスペンションで激しく揺れる車体シートにベルトで身体を固定し、隊員は皆、舌を噛まないように必死で歯を食いしばる。  その中で一人、痩せて顔色の悪い男が床に貼り付きながらセロに、にじり寄ってきた。両足が義足のため、揺れる車内でバランスがとれないのだろう。 「たかだか三〇〇キロの移動に、なんで三日も掛かるのかようやく解ったぜ。この砂漠に着いた途端、一〇キロ進むのも一日掛かりだ。帰りは一日で済むだろうが、どちらにしろ日数オーバーだなぁ……そのぶん手当は出るんでしょうかね、隊長」 「あいにくだな、ボレアス。報酬の追加はない」  形式的な返答に、ボレアスの土気色の顔が気持ち青ざめた。 「隊長ぉ……俺はこんな身体だから、まともに働けねぇんですよ。この仕事は危険だけど報酬がいいから、三日の約束で十二歳の娘を施設に預かってもらって志願したんです。だから、帰りが遅れるのは困るんだ。割り増しの超過料金を払ったら、手元に残る報酬が大分減っちまうよ……なんとかなりませんかねぇ?」  表情を変えないように務めたが、ボレアスの事情にセロの心は乱れる。  娘の心配はいらないと、言ってやりたかった。  だがその理由を聞かれたならば、真の任務を隠し通せなくなるだろう……。     
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