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 黒く、切り立つ水晶のような岩の間を、細かく赤い砂が流れていた。  歩兵などという、過去の遺物が消え去って数世紀。  頑丈さを追求するあまり機能性を失ったタクティカルブーツの底は固すぎて、砂地に足場を作りにくい。だが、外世界に出動する場合には未だ時代遅れの装備が必要だった。  都市システム管理下に無い自然環境では、予測不能な多くの要因が任務の妨げとなるため結局、人間の知恵と工夫と忍耐だけが頼りになるのだ。  それにしても暑い。  昼下がりの外気は、既に四十度を超えているであろう。  セロは紫外線防護服の下に流れる汗を不快に思いながら、眼前にそそり立つ黒水晶の壁を見上げた。  幅約五メートル、高さ約二メートルほどある岩には、昼下がりの日射しがギラギラと照り映えている。 「隊長、中に入ってないと日焼けしますぜぇ」  左腕一本で苦労しながら岩壁に穴を開け、TNAZ化合物を押し込んでいた男が顔を向けると、わざわざヘルメットのバイザーを上げてニヤリと笑った。 「くだらん冗談を言う暇があったら手を動かすんだな、ロド」  セロは起爆装置をロドに投げると、バイザーの下で苦笑する。     
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