第二十六章 鈴木實⑮

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第二十六章 鈴木實⑮

豪州、蘭印の広大な制空権を握り続けた名指揮官 営業部長として、英国の大レーベル・デッカ社と販売契約を結ぶ  昭和三五(一九六〇)年、営業部長としての最初の仕事は、イギリスの大手レコード会社、デッカ社との契約更改交渉だった。デッカはEMIと並ぶ大レーベルで、ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団やオペラなどのクラシックを中心に、スタンリー・ブラック、フランク・チャックスフィールド、レイ・チャールズなどのアーティストを擁する世界有数のレコード会社である。  昭和二十八(一九五三)年、キングレコードが日本での販売契約を結び、「ロンドンレコード」のレーベルでレコードを販売している。デッカはA&M、サン、ドットなど多くのレーベルを傘下に持ち、デッカと契約すれば、それら多くの洋楽レーベルを日本で販売する権利も同時に得られる。だが、この頃は日本のレコード各社が洋楽に力を入れ始めた時期で、うかうかすると他社にさらわれかねない状況であった。  契約更改は二年に一度だが、デッカの極東支配人、デリック・ジョン・クープランド氏は日本人を頭から見下しており、横柄でわがままで担当者もほとほと泣かされていた。そこで鈴木さんの出馬となったのである。 「ホテルオークラの一室に現れたクープランドは、挨拶もろくにせず、ソファーにふんぞりがえって、『お前が新しい担当者か』と。年齢はぼくと同じか、少し年下ぐらいに見えた。それなら、戦争に行った経験があるはずだと思い、『ところであなた、戦争中はどこにいたんだ』と英語でたずねました」
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