渇く心

2/2
前へ
/2ページ
次へ
私は今でも忘れられない。あの時の匂い、あの時の感触、あの時の光景。思い出すたびに身体が震える。 「また、したい」 思わず口から溢れた。 私は台所に目をやる。閑散とした台所に一本の包丁がいる。包丁が私を呼んでいる気がして、私はそっと包丁を手に取った。目を閉じるとあの時の光景が蘇ってきた。渇いた心が潤っていく。 でも、でもやっぱり足りない。私にはもっと水が必要なのだ。私の心を潤す、赤い、水が。 「次は誰かなぁ」 私はタオルと着替えを用意し、鞄に詰め込んだ。もちろん、包丁も。 なんだかわくわくしてきて、思わず笑みが溢れた。 「じゃあ、行ってきます。…帰ってこれるか分かんないけど」 私は誰もいない家に語りかけ、家を出た。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加