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あなたとの始まりは、この桜の木の下でした。
私の人生を変える言葉を言ったあなたは、顔を真っ赤に染めながら、ポケットから小さな箱を取り出しました。
私は一瞬、何が起きたか分かりませんでしたが、その小さな箱の中を見て涙が溢れました。
あなたと娘の三人で初めて写真を撮った場所は、この桜の木の下でした。
まだ小さい娘は一生懸命、落ちてくる桜の花弁を掴もうとしていましたが、一枚も取れず拗ねてしまいました。
あなたは代わりに花弁を取り、娘に差し出しました。娘は大喜びでした。
私はそんな二人の姿を見て、「このまま時が止まれば…」と思いました。
あなたと明日嫁いで行く娘と最後に来た場所は、この桜の木の下でした。
小さかった娘も大きくなり、幸せに満ち溢れた顔はまるであの頃の私みたいでした。
あなたは泣きそうになりながらも、娘にエールを送りました。
私も、負けじと娘に感謝の言葉を送りました。
初めて孫と一緒に来たのは、この桜の木の下でした。
まだ歩くのに不慣れな孫は、一生懸命あなたの元へ歩み寄りました。
あなたは孫を抱きかかえ、ゆっくりと落ちる桜吹雪を眺めていました。
私は新たなる幸福に、胸がいっぱいになりました。
あなたがいなくなって最初に来た場所は、この桜の木の下でした。
現実を受け入れてない私の代わりに、桜の木は涙を流していました。
私は桜の木にそっと寄り添い、「大丈夫…」と声をかけていました。
私が最期に行きたいと言った場所は、この桜の木の下でした。
大きくなった孫に車椅子を押してもらった私は、今まで以上に幸せでした。
この桜の木の下であなたと始まり、宝物が生まれ、幸せと悲しみを覚え、二人で成長出来ました。
もし生まれ変わったなら、またあなたとこの桜の木の下で始まりと終わりを迎えたいです。
わたしは、ある夫婦に愛された桜の木です。
今は二人とも、現実にはもういません。
でも、二人は幸福に満ちた人生を歩んでいました。
わたしは約束します。
二人が生まれ変わったら、またこの場所で再会出来ることを。
わたしは待っています。
「━━桜の木の下で、また会いましょう。」
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