第二十六章 鈴木實⑯

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 こうして、昭和四十五(一九七〇)年に発売された「遥かなる影」は大ヒットを記録し、キングレコードの洋楽部門は黄金期を迎えた。キングレコードのレコードジャケットの背表紙は青色だが、レコード店の洋楽コーナーの棚にズラッと並ぶ青の背表紙は、「青い山脈」と呼ばれ、競合他社からの羨望と妬みの的になった。  この年、キングレコード社内でも「洋楽本部」が「営業本部」から独立し、鈴木さんは洋楽本部長となった。  レコードが売れれば、広告枠も広がる。次の録音もふくめ、ローテーションも組みやすくなる。粟飯原さんは鈴木さんに、 「カーペンターズを本物にするためですから」  と言い、放送局の社長や編成部長との会食にしばしばひっぱり出した。昭和四十八(一九七三)年には「イエスタデイ・ワンス・モア」がふたたび大ヒット、この年に発売されたアルバム「ナウ・アンド・ゼン」は初回プレスの十万枚があっという間に完売し、追加分も、観音開きのジャケットの印刷が間に合わないほどの売れ行きで、アルバムだけで五十万枚を売り切った。この頃、カーペンターズの日本でのレコード売り上げは、ライバルEMIが擁するビートルズをも凌ぐほどだった。  鈴木さんが洋楽本部長となって、粟飯原さんや寒梅さんとともに手がけたアーティストは、クラシックではウラディーミル・アシュケナージ、ポピュラーでトム・ジョーンズ、ポール・アンカ、シャルル・アズナブール、レイモン・ルフェーブル、クインシー・ジョーンズ、リカルド・サントス、セルジオ・メンデス、マントバーニなど多岐にのぼった。
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