第二十六章 鈴木實⑰

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「それじゃ、せっかくですから腕を組んでみましょうか」  と声をかけた。隆子さんはニッコリと微笑んでそっと鈴木さんと腕を組もうとする。ところが鈴木さんは、しっかりと脇を締めて隆子さんの手が入る隙を与えない。どうも、そういうことが照れくさくてできない性分らしかった。  年とともに、クラスメート同士でも、心配なことが増えてくる。山下政雄さんは耳が遠くなった上に癌で入院し、あちこちの病院をたらい回しにされている。進藤三郎さんは柿の木に登って落ちたり、蓋が開いていたマンホールに落ちたりで怪我が絶えない。鈴木さん自身も、糖尿病を抱え、平成九(一九九七)年の春先には、緑内障の手術で順天堂医院に入院している。  平成九年四月十一日、枝垂桜の美しい水交会で行なわれたクラス会に、進藤さんが決死の思いで広島から参加、進藤さん夫妻と鈴木さん夫妻を、私の運転する車で山下さんが入院する横浜の病院にお連れしたのが、「海兵六十期戦闘機三羽烏」が集った最後の機会になった。山下さんはそれからほどなく、六月二十六日に息を引きとった。
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