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桜とランドセル
顔剃りの施術を受けながら亜紀がマサさん!と唐突に話し出した。
「私ね、小学生の時にランドセルの広告モデルにスカウトされたことがあったんです。なのに友達が全然信じてくれないんですよ」
目を閉じてリラックスしていると、ふと色々な出来事がよみがえるのだろうか。
「そんなに小い子にもスカウトってあるんですね」
マサは剃刀の刃を見つめながら応えた。
信じてくれますか?と聞いた亜紀にマサはもちろんと応えて施術を続けた。
「小学2年生の時なんですけどね。学校の帰り道で大きいカメラを持った人に声をかけられて」
「へえ。」
「今、ランドセルのモデルの女の子を探してるから、ちょっとそこの桜の下を歩いてくれないかって」
「この近くの桜並木でですか?」
「こっちに引っ越して来る前の話なんで、そこの堤防じゃないんですよ。で、実際に歩いたらイメージとピッタリだから今からスタジオへ来て欲しいって言われて」
「即決ですか」
「そうなんですよ。まぁ実際には載らなかったんですけどね」
剃刀の刃に付いたクリームを拭き取りながらマサは眉を上げる。
「そのランドセル会社が潰れたんじゃないの?」
待合椅子代わりにあるバーカウンターから坂口由紀乃の声がした。
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