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マサの経営するcatnapではシェービングエステなる顔剃りが人気で理容室には珍しく女性客が多い。
「違いますよ。父のせいなんです」
顔剃り後のパックまで終わり倒されていた椅子と共に起き上がると亜紀は鏡越しの由紀乃に向かって、そう言った。
「へぇ。じゃあどうなったの?聞きたいから時間あるなら亜紀ちゃんもコーヒー飲んで行きなよ」
そう促され、私も聞いて欲しいですと亜紀は由紀乃の隣の席に移動した。
catnapのバーカウンターには、客が持って来た飲み物やお菓子の差し入れが置いてあり、常連は皆自由に過ごしていく。
「その日は父が鍵を忘れていった上に、早く帰ってくるから終わったら急いで真っ直ぐ帰るように。って仕事に行った母から学校に言伝てがあった日だったんです」
「あらあら」
「だから、1時間ほど待っててくださいって言って帰ったんです」
「じゃあ、写真スタジオへは行ったの?」
マサから受け取ったコーヒーを飲みながら亜紀は首を振った。
「それが、結局夜まで帰って来なかったんですよ。次の日から桜が散るまで毎日桜並木の辺りを歩いてたんですけど、もう会うことはなかったです」
「そうだったんだ」
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