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「よかった……」
修二は智花の体を強く抱きしめると二人見つめ合い智花の唇にそっとキスをしていた。
このまま時間が止まればいいのに………
突然風が吹いてきた。さっきのやわらかな風ではない。強く冷たい風が吹いている。
「智ちゃん。寒くなってきたね。そろそろ帰ろうか。送っていくよ」
修二はタクシーを停めると智花を先に乗せ後から乗り込むと、智花の家がどこなのか知らないことに気づく。
「智ちゃん。家、どこだっけ?」
あぁ!!わたしの家?!
わたしの家には祐介がいる。
ハッと気づいた時には遅かった。
そうだ。わたしの家には祐介がいる。
わたしには夫がいた。
修二の家は横浜だ。方向は違うが送っていくという。困りながらも嘘はつけないでいた。
「わたしの家は北新宿」
修二は行き先を運転手に告げると車は走り出した。
智花は考えていた。
部屋まで送っていくといわれたらどうしよう。
現実に引き戻されていく。
今日に限って赤信号にひっかかることもなくスムーズに車は走っていた。
気がつくと智花のマンションが見えてきている。
「すみません。この辺りで降ります」
修二が部屋まで送っていくというのを振り切るように体をおこすと智花は慌てた様子で車から降りた。
「修ちゃん。有難う」
「うん。こちらこそ楽しかった。じやぁ~また明日」
智花が手を振ると車は走り出した。
タクシーを見送り後ろを振り返ると祐介と暮らすマンションが見える。
マンションの部屋の灯りは眩しいくらいに光っていた。
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