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並んでお待ちください
(もう無理──っ……!!)
そう思いながらも菜々美は歩道橋を全力で駆け上がっていた。駅ビルの2階へ直結するこの歩道橋を渡ればゴールは目の前だ。電車の時刻は6時5分発。今、彼女の腕のデジタル時計は6:02と表示している。人気の殆ど無い駅ビルの中を、スカートが翻るのも気にせず猛ダッシュする。いつもならガラスシャッターの後ろに見えるコスメやポーチ等の新商品を確認してしまう所だが、今日はそんな暇がある筈も無い。清掃員の拭き上げたばかりの床の上を、滑らない最大限の速度で通り抜け、2階の改札を通る。菜々美が2番ホームの降り口に到着した所で、列車到着のアナウンスが入った。
菜々美の地元の最寄り駅は、田舎の中では『都会』と呼ばれる駅になる為比較的利用客が多い。次発とは言え最初の快速電車の為、結構な人数が降りて行くし結構な人数が乗る。彼女は扉も開いて一番混雑している階段付近をすり抜け、3つ先の乗り口の列に自動販売機の後ろから並んだ。5両目の真ん中の扉。これが彼女のいつもの乗り場だ。まだ肩でゼイゼイと息を切らしながらも、菜々美は自分の並んでいる列の先に見える1人の人物の頭を見ていた。
(……居た!)
呼吸が乱れているのとは別に、彼女の胸の中で心臓が跳ね上がる気がした。降車の人が降りきって、ホームに並んでいた人々が手品の様に次々と電車に吸い込まれて行く。菜々美は見ている後ろ頭から目を離さない様注意しながら、髪を手で整えてから最後に車両に乗り込んだ。
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