お忘れ物にご注意ください

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「ナミ!先輩なら今年までしかチャンス無いよ!」 ユッコとノリも、そうだそうだと大きく頷く。 そしてあの日、菜々美は告白すると決めた。その緊張だったのか、単にそれが運命の悪戯と言うものだったのか。テスト前だった訳でも、朝練があった訳でも無かった。次の日の朝、彼女は1年ずっと乗り続けていた6時5分の電車に乗り損ねた。翌日からまた、6時5分の2番線5両目真ん中の乗り口に並ぶ菜々美の姿があった。当然、例の彼もいつも通り同じ乗り口に並んでいた。それなのに、菜々美は何も言う事が出来なくなっていた。あの日の朝、6時5分の電車であの5両目真ん中の乗り口から乗れなかった。その事で、彼女の気持ちは一気に挫けてしまったのだ。それでも何回か、また勇気を振り絞ろうと頑張った。菜々美の想いを知る3人も彼女を励まし、応援してくれた。そうこうしている間に、2年生の春休みになった。そして3年生になった菜々美がいつも通り電車に乗った時、彼の姿は無くなっていた。  『ホント?!ヒロト大好き!』 菜々美がメッセージを打ち終えるのと、目的の駅に到着するのはほぼ同時だった。もう彼女の頬にあった熱は消え去っている。自分の打った『大好き』の文字を見て、菜々美は少し微笑んだ。扉が開いて、ホームに降り立つ。彼女と入れ違いに、乗り口に並んでいた人達が次々と電車へと飲み込まれる。菜々美はその中を、弾む様な足取りで改札を抜けて行った。
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