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沈んで行く真っ赤な夕日が、駅ビルによって一瞬で掻き消された。ホームに滑り込んだ車両から、巣を突かれた蟻の様に乗客が流れ出る。その内の一匹が改札を抜け、駅ビルの2階から続いている歩道橋へと出て行った。そのちょうど真ん中に来た所で、菜々美は立ち止まる。下を見るとピアノ線の様に行儀良くレールが並ぶ。彼女の正面には丁度2番ホームが見えている。
(もう1年、経つんだ。)
時折、放送の声とベルの音に続いて電車の鋭いブレーキの音が響いて来る。
「告白しないの?」
亜紀ちゃんの言葉に、菜々美はハッとした。教室での打ち明け話の続きは部活の後になったのだ。帰り道で亜紀ちゃんが聞いてきた。
「ずっと好きなのに、告白しないの?」
「……え?」
告白する。何故その事を今まで考えなかったのだろう。1年もの間ずっと、ほんの数分顔を見るだけの人。それでも菜々美にとってこの1年間、彼以上に好きだと思える人が現われる事は無かった。それなのにどうして今まで自分の想いを伝えようと思わなかったのか、菜々美自身にも分からなかった。毎日6時5分の電車の5両目真ん中の乗り口から電車に乗る、まるで義務の様に必死にそれだけを続けていた。
(……告白、しよう。)
2番線から出て行く電車を見つめながら、菜々美は強く思った。
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