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(うそ……?)
電車に乗り込むなり、彼女は反対側の扉へ張り付いた。今度は2番ホームへの電車到着のアナウンスが入り、菜々美の目の前に2番線の電車が現われる。それと同時に、菜々美の乗った電車が動き始める。その中で彼女は扉の前に張り付いたまま、向かい側の電車の中を必死に見つめていた。2番線の電車が完全に見えなくなった後、菜々美は開いている席にドサリと座り込む。
(彼だった……。)
菜々美が見間違える筈が無い。2年間ずっと見続けて来た人の姿だ。呼吸が乱れ、微かに膝が震えている。菜々美は、自分の頬が急速に熱くなっていくのを感じた。ポケットでスマートフォンが震える。
『前言ってた限定ドリンク見付けたよ!』
ヒロトからのメッセージだ。返信を打とうとするが、上手くいかない。指が震えているだけで無く、考えが纏らないのだ。菜々美の頭の中は一気に高校時代に引き戻されていた。
「その制服、T学園かも!」
そう言ったのはノリだった。菜々美が唯一彼について知っていた、学ランに付いている校章の特徴を言った時の話だ。他に菜々美が知っている事と言えば、制服の具合と雰囲気から先輩だと思われると言う事だけだ。
「え、T学って確か私立の進学校じゃなかった?」
「かなり南の方だよね。」
公立とは言え同じ進学校の学生だけあって、亜紀ちゃんもユッコも彼の学校の名前に覚えがあるらしい。受験の際に公立しか選択肢の与えられなかった菜々美には、初めて聞く名前だった。
「T学園……。」
思わず呟いた菜々美の肩に、亜紀ちゃんが腕を回す。
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