第五章3節

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 飛行機をつくったリンドバーグも、電球や蓄音器、映写機なんかをつくったエジソンも、自動車を大衆の手の届くところまで普及させたフォードも、ウィンドゥズで世界のコンピューターの規格を統一させたビル=ゲイツも、皆自分の面白いと思うことを大衆の前に突き出して、それで皆に受け入れられた。  別にここまで話を大袈裟に持ってこなくてもいい。  例えば自分の思い描くことができればそれがその一個人の中ではゲームの『勝ち』となりえるわけだ。普通この社会でではどんなことをやり遂げるんだって他の人間が絡んでくるからね。為すことイコール他人に影響を与える、ってなもんでね。  大学に行きたいって望んで勉強して見事受かれば一つの『勝ち』。あの子のことが好きでお付き合いしたいって告白して、めでたくOKだったらそれもまた一つの『勝ち』。自分じゃなくても子供に夢を託してそれを子供が叶えたなら、それはそれで一つの『勝ち』。  TVゲームが好きな子が人殺しなんかをするっていうのは嘘さ。  彼らは思い描くことが、どうやったって思い通りにならない。あるいは思い描けもしない。簡単にいえばこれが『負け』てるんだね。  だから、みんな無理矢理に誰でも勝てるような方法を模索する。  まあ、これが物を盗むということだったり、人を殺すということだったりするわけだ。  どうだい? わかったかい?」  僕は黙ってそっぽを向く。  …全然駄目だ。いいかえせるわけがない。  口を噤んだままでいると藤代が舌打ちを鳴らした。     
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