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第五章4節
4 一九九九年 五月 二十七日 (木)
「ほほう、それはどんな風にだい?」
藤代は腕を組みながら、僕を興味深そうに見つめる。
「…人を思う心だ!」
藤代が含み笑いを浮かべ、「ふんふん」などと頷く。
笑い事じゃない! こっちは真剣なんだ。
「僕は小学生から中学の二年になるまでずっと友達がいなかった。中学の三年生になったら、それに加えていじめられ出したりもした。僕は塞ぎ込んで人間なんかともう関わらない。人生なんかもうどうでもいいと思うようになった。頭には何の未来も思い描かなくなった。
…だけど、高校に入ってから一人の先生に出会って僕は変わったんだ。
その先生は僕は両親にすら優しくされたことがないのに、ただ僕の副担任だったっていうだけで、無愛想で何の反応も示さないような僕に、声をかけ手を握ってくれた。そして僕のために泣いてくれた。
負け続きの人生でも、先生のために生き続けようと思ったん……」
「ねえ道生君」
急に藤代が割り込んでくる。何だよ、何が文句あるんだよ!
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