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それは春の悪戯だったのかもしれない
何より大事にしていたものを奪われたり、何よりも大事にしていた人に嘘をつかれたり
あなたのことを誰よりも愛している
だからわたしはあなたを取り戻すの
だからわたしはあたの嘘を正すの
ただそれだけのことよ
わたしはあなたのいなくなった部屋に一人でいることはできない
今までこんなことはなかったわ
あなたが家を出てもあなたはここにいたのよ
ここはあなたの家、そしてわたしの家
たとえあなたが外に出ても、あなたの心はここにあったの
だから一人でいても淋しくなんかなかったわ
あなたの帰りを待つこの時間はとても大切なものなのよ
あなたは知らないでしょうけど、わたしはあなたと会えない時間をしっかりとあなたと過ごしていたのよ
あなたの服を洗濯し、あなたの食べた食器を洗い、あなたがくつろいでいたリビングを掃除するの
あなたの好きなクリームシチューの材料を買いに行ったら、あなたの好きなイカが新鮮で美味しそうだったから、揚げ物とお刺身にしたらいいかなって、メニューを考えるの
あなたは何を食べても美味しいと言って食べてくれるけれど、本当に美味しい時は、二回頷くのよ
そしてもう一口食べるの
そうでもないときは、別の物に箸が行くわ
お味噌汁の味噌が濃い時は、一瞬眉間にしわを寄せるわ
わたしはずっと、あなたを観てきたのよ
あなたが居る時も、居ない時も
でも、今この家に、あなたは居ないわ
だから、返して貰うの
あなたはきっと気まぐれに、何の気なしに、あの娘と戯れたのね
可愛い子ね
でも、くりくりとした目が嫌い
ニタニタと笑う口元が嫌い
さらさら風になびくしなやかなダークブラウンの髪の毛が嫌い
清楚な感じの洋服を選ぶセンスが嫌い
それに彼女の持っているバッグはあなたがプレゼントしたのよね
いいものだけど、あの子には似合っていないわよ
春の悪戯
見送る人の肩越しに
透けて見えるは 嘘偽りか
口惜しいかな
ふつふつ燃える嫉妬ザクラ
逸る気持ちを抑えては
烈火の如く 激しき怒り
乱れる髪を 櫛で宥める
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