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少しすると佐藤が目を覚ました。拒絶反応の残りか、頭痛が酷そうだった。
「目が覚めたかい。さっきは助かったよ。」
井上が最小限の言葉で感謝を述べ、頭を下げた。不器用な井上にとって最大限の感謝の示し方だった。佐藤は気を失う前の記憶を取り戻そうとした。
「い、良いんだ。戦闘に慣れてそうな君を助ければ色々と便利だと思ったから…。ここを提供する代わりに色々とよろしく頼むよ。」
方便だった。打算的どころか何の考えも無かったが、いきなり「助けたいと思った」などと言って、面倒な勘繰りをされても困る。それならばお互い win-win な関係を意識させた方が楽だと思ったのだ。
佐藤にとってはいつぶりの生身の人間との会話だろう。上手くコミュニケーションをとる事ができるか不安になる。あの状況で声をかけておいて、今更出て行けとも言えなかった。
「りょーかい。」
井上は気怠そうに答えた。それに続く言葉はない。無口な井上を相手に、佐藤はどうしたものかと考える。決して威圧的な態度は無いが、この静寂は精神的に良くない。
「その軍服は本物なの?」
佐藤は慣れないながらも、自分が会話のきっかけを作って気不味い雰囲気を解消しようとした。
「あぁ。」
「って事は本物の軍人さんだ。良いなぁ、軍服って憧れがあってさ。俺も取り寄せてみたんだけど、どうもコスプレチックでいまいち格好良くないんだ。そうだ、今ちょっと着替えてくるよ!」
井上は頷きや眉を動かす事で相槌を打った。着替えた佐藤がお披露目するが、なるほど、いかにもコスプレな軍服だ。着慣れた感も無ければ、この若さで肥満体型の軍人というのもまた滑稽に映る。
井上の口角が上がり、強面ながらも中々愛らしい笑顔を見せた。自分の行動に反応が返ってくる、この久しぶりの感覚に佐藤は妙に興奮した。活発な小学生が、その日あった出来事を親に嬉々として話す様に、ネットの噂やこの部屋の事などを、一生懸命に井上に話した。
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