第一章 【一】

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 今、笠原は、想いを告げようと彼女を待っているところだ。カフェの中には、勉強する者、デートの行き先を話している者、タブレットで仕事をする者など、様々な人間がいる。いつもと変わらないこの平和の中で、小便を我慢しているかの様にそわそわしている笠原は、端から見ると少し変な男に映っただろう。  何度も告白シミュレーションし、三杯目を飲みつつ、一向に現れない彼女の心配をし始めた頃、大きな音が注目を集めた。  音の原因は、目の前の交差点で起きた事故による物だった。笠原はすぐに救急車を呼び、野次馬に声をかける。 「政府の者です!通してください!」  日頃の訓練により、この様な事態への対応が素早い。野次馬をかき分けていると、事故の中心部から悲鳴が聞こえて来る。いや、絶叫という表現が適切かもしれない。  焦りと共に現場へ急ぐと、血だらけの人が、血だらけで倒れている人の腹部を押さえていた。しかし、声をかけようとした笠原の背中に、汗が滲んだ。  血だらけで倒れている人は内臓が飛び出ていた。そして、血だらけの人は押さえていたのではない。内臓を貪っていた。
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