第一章 【一】

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 何が起きているのか理解できなかった。事故のせいで錯乱しているのかもしれない。止めようしたものの、血だらけの【ソレ】の異常さが踏み止まらせた。  【ソレ】はうめき声をあげながら、皮膚は黒ずみ、ひび割れ、【赤い目】をしていた。子供が砂場でおままごとをする様に、泥にまみれながら泥団子や泥水スープを口に入れるフリをする様に、血にまみれながら、一心不乱に喰っている。周りを気にせず貪る姿は、本能のまま、といった様子だった。  野次馬に避難を促そうとしたとき、事故を起こした車に目がいった。まだ誰か乗っている。救助しようと車に近付くが、無駄である事がすぐにわかった。目が充血し、血が出るほど頭部をかきむしり、奇怪な動きをしていた。 「危ない!」  後ろからの声に身を構え振り返ると、血だらけのソレが立ち上がり、こちらに向かって来ている。そして声に反応したかの様に車中のソレも降りてきた。 「異常事態発生!敵国生物テロの可能性有り!即刻避難せよ!安全が確保できる場所にて知らせを待て!」  叫ぶと同時に二体の膝を撃った。ソレは崩れ落ちたが、這って向かってくる。職場に緊急事態の連絡をするが応答がない。  ソレは頭を撃つと動かなくなった。少しでも情報を得ようと、慎重にソレの持ち物を探る。血に汚れた身分証から、他地区の子供の(その)の職員だと判明した。  不意に彼女と重なった。応答のない職場、(その)の職員の異常、不吉な予感が加速する。現場の保存をし、すぐに職場へ向かった。  笠原の人生において、経験がない程混乱していた。アレはなんだ。化物か。本当にテロか。ゾンビなのか。なぜ応答がない。何が起こっている。彼女は無事なのか。  職場に向かう途中、至る所から悲鳴が聞こえる。人らしき影が人を襲っている様に見えた。不吉な予感を振り払うために必死に走った。  しかし、この予感は的中してしまう。職場は一目で手遅れとわかる有様だった。化物が徘徊し、硝子は割れ、血を流し息絶えている人が見えた。なんとか建物に近付くも、中は化物の数が多く、探索を諦める他なかった。
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