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か
「亀がさ、歩いてたのよ。道路の真ん中を悠長に。でも国道でしょう?車がビュンビュン来るのよ。で、危ないじゃない?だから連れてきたってわけ。でも私亀なんて飼ったことないでしょ?確か昔エイタ飼ってたよね?だから飼ってくれないかなって思って連れて来ちゃった」
と、20センチはある亀を抱えて帰ってきた俺の幼馴染のユカ。
連れて来ちゃったって……。
なんだよそれ。
お前、この前俺告白してあっさり振ったよな?
なのに何でそんな何も無かったように普通に話せる?
俺今傷心中なんだけど。
モヤモヤしながらその亀を見つめる。
「ね?聞いてる?」
「あ、ああ。まあ聞いてるけどさ」
思わずため息が漏れる。
「ね?亀、飼ってくれる?」
「……お前も、世話しに毎日来てくれるってんなら、まあ飼ってやってもいいけど」
まだ未練がましい俺。
実に女々しいとは思う。
でも、そう簡単には諦められない。
五年越しの想い。
「……まぁ、来ても良いけど、さ」
「え、マジで?」
思い掛けない返事に目を瞠る。
脈はないと分かっていても、つい喜ぶバカな俺。
彼女が亀に目を落とす。
「あの後さ、考えたのよ。じゃあ、エイタがこの先私じゃない誰かと付き合ったとしたら、って。……そうしたら、なんか嫌だったのよね」
「……え?」
「だから!嫌だったのよ。エイタが私以外の誰かと付き合うってのが!……それってもしかして、私エイタの事好きだったのかなって、そう思って。その日は中々眠れなかった」
亀を抱えながら唇を尖らせて、居心地悪そうに目を伏せる彼女。
ゴクリと固唾を呑んだ。
「じゃあ。じゃあ、俺と付き合ってくれんの?」
「大事にしてくれるなら、付き合っても良いよ」
「する!すっげ大事にするから!」
ダメだ。
俺、今滅茶苦茶シッポ振ってる。
その上目遣い、ヤバイって。
緩みっぱなしの俺の口元。
俺の鼓動が急にうるさい。
『い』です。
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