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氷月は不快そうな表情を見せたが、神無の方に一瞬目を向けて渋々答える。
「……正式に習った訳じゃない。でも刀を振るいながら生きて来たのは確かだ」
「よし、合格!」
鏑が突然大声を上げて背中を叩いたので、氷月は思わず咳き込んだ。
「な、何だよ。いきなり」
「神無。取り敢えずこいつがこっちで生活して行けるよう、面倒見てやってくれ」
「はい。分かりました」
「だが、まずは着替えだよな。ひとまず俺のを貸してやるか」
ベッドの上の少年を見やって続ける。
「お前には少しサイズがでかいかもしれないが、勘弁してくれよ」
「ちょっと待った!勝手に話を進めるな。何なんだ、一体」
「本日付けで、お前を俺の部下として採用する。ま、せいぜい働いてくれよ」
「はあ?」
呆気にとられた氷月を余所に、鏑が更に話を進める。
「じゃあ着替えを取って来る。ちょっと待ってろよ」
「はい」
神無が頷くと、鏑は飄々【ひょうひょう】と部屋を出て行った。
「すみません。お父さん、細かい事にはこだわらない人なので。驚かれたでしょう」
立ったままだった神無は椅子に座り直し、安心させるようにゆっくりと言った。
「今、大変な問題が起こっているんです。その為に、何百年も前から人を呼び寄せる計画が動かされて来ました。そして、応えて下さったのが貴方です。氷月さん、私達に力を貸して欲しいんです」
冬の光が射し込む室内に、沈黙が降りた。
見詰め合う二人は、時を越えて出会った二人。
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