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パジャマと呼ばれているらしい衣を脱ぎ、鏑が持って来た衣に着替える。
合わせも帯も無いから何だか落ち着かないが、それよりももっと気になる事がある。
目覚めてすぐに瞳に映った、神無という娘。
彼女はとてもよく似ている。
何百年も昔だという時の向こうで共にいた、大切な人に。
思い出すのは、包み込まれる狂おしい朱。
閉ざされた瞳から一筋流れた朱い雫。
悔やんでも悔やみ切れない、あの惨状。
「氷月さん?着方、分かりましたか?」
部屋の外から声を掛けられ、はっと我に返る。
「今、終わったところ」
変ではないのか分からないが、取り敢えずそう答える。
すると入り口が開いて、神無が顔を覗かせた。
氷月の姿を見て、柔らかな笑顔を浮かべる。
「ボタンがずれてしまっていますね。少し待って下さい」
神無は近付いて来ると、ボタンというらしい丸い飾りを丁寧に留め直した。
それから少し離れ、改めて氷月を眺める。
「よくお似合いですよ。全然違和感が無いです」
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