序章 井戸の怪

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 興が乗ったのか、議論はまだ続いている。 「棺に納められてしまったら、川縁には立てないだろう。白装束というのは、実際着ていたものというよりは、自死した者の覚悟の表れなのではないか――?」 「覚悟の身投げなら、何も迷って出ることはない」 「そこが女の浅はかさで、飛び込んだ瞬間に、しまったと思ったのだろう。だから、船頭どもも、女の身投げは助けるが、男は助けず、念仏を唱えてやると言う――」 「ばあか。女を助けるのは、他に下心があってのことに決まっているよ」  ――と、だんだん話がそれていく。  隼介は、声を張った。 「幽霊など、いない! 世迷い言だ!!」  さっさと終わらせて、帰りたかった。  本当なら、一時だって、こんな所にはいたくないのだ。 「ふうん。なら、隼介が一番手でいいよな」  一番年嵩の兵馬(ひょうま)が、意地の悪い笑い方をした。 「行くのは一人ずつ。明かりは無しだ。古井戸には、木の蓋がしてあるから、暗くても誤って落ちる心配はない。その蓋の上にこれを――」  と、兵馬は、懐から印籠を出して、 「隼介が乗せてくる。次の者は、それを取ってきて、また次の者に渡す――という段取りだよ。いいな」  皆がこくこくと頷いて、 「わ、わかった……」  と、隼介は印籠を受け取った。
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