序章 井戸の怪

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 兵馬の魂胆は、分かっている。  剣術の試合で、一つ年下の隼介に敗れたのが、我慢ならないのだ。  年齢だけではなく兵馬は、体つきも大柄で、力も強い。もちろんただの見かけ倒しでは無く、同年代の少年達の中では、兵馬に敵う者はいないと、言われていた程だったのだが、一昨日の試合では、隼介が続けて二本取り、著しい進歩だと、先生にも褒められたのだ。  それが面白くなくて、こんな形で意趣返しをしようというのだろう。  隼介は、幼い頃から暗闇が怖かった。  いや――幼い者は普通、誰でも暗闇を恐れるものだが、隼介のそれは尋常ではなく、夜になると一人では厠へも行けず、それが為に、いつまでも寝小便の癖が、直らなかった程だ。  狭い八丁堀のことだから、そういった噂は簡単に広まる。  他愛もない子どものこととて、初めのうちは父親も、殊更隠そうとはしておらず、隼介の怖がりは有名だった。  だから、こんなくだらない肝試しなんかを企画して、年下の子どもたちまで集めて、自分を笑い物にしようとしているのだ。
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