三

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   三

 紅蓮の炎が天を焦がしているが、小者の報告にあったとおり、いち早く駆け付けたという、め組の纏が勇ましく翻っている。  纏は、ここまでで火を消し止めてみせるという、火消し達の心意気の表れだ。  事実――  風は強く、火勢も凄まじかったが、火元の家の周囲は既に取り壊されていた。  行き場を失った炎が、まるで赤龍のように天に向けて吹き上がっているが、この一軒を燃やし尽くせば、やがて鎮火するだろう。  見事な手際だった。  竜吐水は、燃えている家ではなく、風下の家に向けられており、火の粉による飛び火を防ぐよう、せっせと放水している。  その屋根の上に、め組の纏持ちが立っているのだ。  竜吐水から吐き出された水は、屋根の上までは届かない。  ここでこうしているだけでも、熱波になぶられて頬が焼けるのだ。  諸肌脱ぎで火の粉を浴びる纏持ちは、さぞかし熱いことだろうが、一歩たりとも退くことは無い。ひとたび掲げた纏を退かせるのは、火消しの恥であり、意地を通して最後まで退かず、焼け死ぬ纏持ちもいるという。  鳶たちが、必死で水をかけているのも、万一この家に火がかかっては、め組の恥となるばかりでは無く、纏持ちの命に関わりかねないからだろう。
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