Chapter4 月光

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帰りたい。 家に、元いた場所に帰りたい! 強烈(きょうれつ)に、今までの生活への(いと)おしさと後悔(こうかい)が込み上げる。 勝手に諦めていたのは私 生温くて単調な日々に甘んじていたのは私 誰も信じないで遠ざけていたのは私 ああ、なんてバカだったんだろう。 自分次第でいくらでも変えられたのに。 自由に生きられたのに。 私を籠の中に閉じ込めていたのは私だった! 神さま、どうかもう一度チャンスを。 今度こそ、感情を味わいながら精一杯生きます! 神を思い空を見上げた次の瞬間、背中に激痛が走った。 意識が遠のいて、再び目を開けると、仰向けになっている私の周りを街の人たちが取り囲んでいる。 みんな、相変わらずの貼り付いたような笑顔だ。 覗き込んでいる人たちの隙間から、さっきまで隠れていたまんまるのお月さまが輝いている。 お月さまの輪郭(りんかく)がぼやけて、虹色(にじいろ)(にじ)んで宇宙に向かって放射状に、色とりどりの光になって広がっている。 (夢みたいに綺麗。) ・・ああ、そうか。 私、死ぬんだね。
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