Chapter1 無彩色

2/4
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
列車を乗り()いで、もう半日は経った。 さっきから知らない駅名ばかり。 窓から見える景色は草原が広がり、そよそよと風になびいている。 奥には鬱蒼(うっそう)とした濃い緑の森。 いつ降りよう。 どこでもいい。 3回続けて赤いものを見たら降りよう。 赤いポスト 赤い屋根 赤いスカートの女の子 汽車を降り、無人の改札を出る。 ここでは 誰も知らない。 誰にも知られていない。 見知らぬ土地。 少し、気分が軽くなる。 「どこから来たね?」 驚いた。 人の気配を感じなかった。 背の低い(しわ)くちゃのお(ばあ)さんが背後(はいご)に立っていた。 「東京からです。」 「そうかい。ゆっくりして来んしゃい。」 「ありがとうございます。」 改札を背にしばらく歩いて振り向くと、先程のお婆さんは、まだこちらをじっと見ている。 お節介で親切。そして(ひま)を持て余している老人だろう。 今は人とあまり関わりたくない。 「宿は決まってるかね?」 老人とは思えない、しゃがれた大きな声で呼び止められる。 「いえ、思い立って降りた駅ですから。まだ何も決めていません。」 「そうかい。気ままな一人旅じゃな。いいことだ。」 「宿と言っても、今はどこもやっておらん。 わしのとこに泊まるといい。」     
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!