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「いえ、そこまでご迷惑をおかけするわけにはいきません。
泊まるところがなければ別の駅まで行きますから。」
「それはいかん。いい若いもんが遠慮するな。年寄りの言うことは聞くもんだ。」
まあ、確かに、また汽車に乗って別の駅に行くのも、これから宿を探すのも、面倒に思える。
半ば強引に押し切られるようにして、老人の家にお世話になることになった。
古い日本家屋の畳の部屋に通される。
8畳くらいだろうか。
入って左には、ちょっとした床の間があり、鯉の掛け軸がかかっている。
物がない分広く感じる。
荷物を置くと、今まで知らずに張っていた緊張の糸がゆるむ。
やっぱりお世話になることにしてよかった。
最初は関わりたくないと思っていたくせに、我ながら現金なものだ。
ゴロンと畳の上で横になる。
「落ち着いたかね?」
お婆さんが二人分のお茶と急須をのせたお盆を手に、ふすまを開けて入って来た。
「ありがとうございます。助かりました。」
急いで起き上がる。
老人は無言でよしよしと言うように微笑むと、唐突に
「あんたなんで一人旅しようと思ったんか?」
と聞いてきた。
正直、自分のことをあれこれ詮索されるのは嫌いだし、不快になる。
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