Chapter1 無彩色

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「いえ、そこまでご迷惑をおかけするわけにはいきません。 泊まるところがなければ別の駅まで行きますから。」 「それはいかん。いい若いもんが遠慮するな。年寄りの言うことは聞くもんだ。」 まあ、確かに、また汽車に乗って別の駅に行くのも、これから宿を探すのも、面倒に思える。 半ば強引に押し切られるようにして、老人の家にお世話になることになった。 古い日本家屋の畳の部屋に通される。 8畳くらいだろうか。 入って左には、ちょっとした床の間があり、(こい)の掛け軸がかかっている。 物がない分広く感じる。 荷物を置くと、今まで知らずに張っていた緊張の糸がゆるむ。 やっぱりお世話になることにしてよかった。 最初は関わりたくないと思っていたくせに、我ながら現金なものだ。 ゴロンと畳の上で横になる。 「落ち着いたかね?」 お婆さんが二人分のお茶と急須をのせたお盆を手に、ふすまを開けて入って来た。 「ありがとうございます。助かりました。」 急いで起き上がる。 老人は無言でよしよしと言うように微笑むと、唐突(とうとつ)に 「あんたなんで一人旅しようと思ったんか?」 と聞いてきた。 正直、自分のことをあれこれ詮索されるのは嫌いだし、不快になる。     
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