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でも、宿を借りる立場の弱さと、日常から隔離された安心感から、都会の生活に疲れ、退職して旅に出たことを話した。
「親御さんにはちゃんと言ってきたのかい?」
老婆心だろうか。真剣な眼差しで聞いてきた。
「いえ、一人暮らしですし、親とも、もうずっと連絡を取ってないので。」
「そうかい。」
それきりしばらく黙り込み、日本茶をすすりはじめた。
気を遣わせてしまったかもしれない。
「せっかく来たんだ。大したもんはないが案内しよう。」
断りにくい雰囲気が出来上がり、もうすっかり老人のペースだった。
「背中にゴミがついてるよ。」
さっき寝転んだ時だろうか。
背中に当てられた老人の手は、とてもあたたかだった。
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