Chapter1 無彩色

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でも、宿を借りる立場の弱さと、日常から隔離(かくり)された安心感から、都会の生活に疲れ、退職して旅に出たことを話した。 「親御さんにはちゃんと言ってきたのかい?」 老婆心(ろうばしん)だろうか。真剣な眼差しで聞いてきた。 「いえ、一人暮らしですし、親とも、もうずっと連絡を取ってないので。」 「そうかい。」 それきりしばらく黙り込み、日本茶をすすりはじめた。 気を遣わせてしまったかもしれない。 「せっかく来たんだ。大したもんはないが案内しよう。」 断りにくい雰囲気が出来上がり、もうすっかり老人のペースだった。 「背中にゴミがついてるよ。」 さっき寝転んだ時だろうか。 背中に当てられた老人の手は、とてもあたたかだった。
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