18人が本棚に入れています
本棚に追加
街全体に音楽が流れはじめた。
ずっと昔に聞いたことがあるような、どこか懐かしくて、それでいて胸がギュっと切なくなるようなメロディだった。
その時、信じられないことが起こった。
音楽に合わせて街の中心部からお湯が湧き出て、みるみるうちに、広場全体を満たしはじめたのだ。
凹凸が、上手くお湯をあるべき場所に誘導し、お湯の中から曼荼羅が浮かび上がる。
湯気とお湯の匂いで充満したあたたかい空気の中、低く位置する夕日に照らされ突如として現れた温泉場は、この世のものとは思えない美しさだった。
こんなに綺麗な景色があるんだ。
あまりに美しい景色を前に、まるで時が止まったよう。
(生きていて良かった。)
唐突に、そう思った。
その瞬間、お湯が頬に跳ねた。
手でお湯を拭うとそれはお湯ではなく、頬を伝う自分の涙だった。
どうしたんだろう。
涙があとからあとから溢れて来て、止まらない。
こんなに涙があったんだ。
私、まだ感動できるんだ。
今まで抑えて来た感情と、はじめて感じた心からの深い感動に、もう、なんで泣き続けているのかわからなかった。
そんな私を、お婆さんも、街のみんなも、温かい眼差しで見てくれていた。
最初のコメントを投稿しよう!