Chapter2 夕日

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街全体に音楽が流れはじめた。 ずっと昔に聞いたことがあるような、どこか懐かしくて、それでいて胸がギュっと切なくなるようなメロディだった。 その時、信じられないことが起こった。 音楽に合わせて街の中心部からお湯が湧き出て、みるみるうちに、広場全体を満たしはじめたのだ。 凹凸が、上手くお湯をあるべき場所に誘導し、お湯の中から曼荼羅が浮かび上がる。 湯気とお湯の匂いで充満したあたたかい空気の中、低く位置する夕日に照らされ突如として現れた温泉場は、この世のものとは思えない美しさだった。 こんなに綺麗な景色があるんだ。 あまりに美しい景色を前に、まるで時が止まったよう。 (生きていて良かった。) 唐突に、そう思った。 その瞬間、お湯が頬に跳ねた。 手でお湯を拭うとそれはお湯ではなく、頬を伝う自分の涙だった。 どうしたんだろう。 涙があとからあとから溢れて来て、止まらない。 こんなに涙があったんだ。 私、まだ感動できるんだ。 今まで抑えて来た感情と、はじめて感じた心からの深い感動に、もう、なんで泣き続けているのかわからなかった。 そんな私を、お婆さんも、街のみんなも、温かい眼差しで見てくれていた。
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