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Chapter3 暗転
もう一度、やり直してみようかな。
あの場所で。
ずっと連絡を取らなかった両親にも、逢いに行こう。
不思議なことに、湧き出る温泉で満たされた街”という、現実離れした美しい景色を見て感情が動いたことで、都会の無機質な中にあるほのかなあたたかさに気付くことができた。
あれだけウンザリしていた都会の美しさを愛しく、懐かしく感じている、自分自身の気持ちに気付いた。
「ありがとうございます。
本当に、ここに来て良かったです。」
「私、帰ったら、生まれ変わったつもりで生きてみます。」
「・・・」
喜んでくれると思って見たお婆さんの口から、耳を疑う言葉が出た。
「そりゃー無理だ。あんたここからはもう出られん。」
「え?」
「あ、今日は泊まらせていただきます。
明日朝一で帰ろうと・・」
遮るように、雑貨店の奥さんが口を挟む。
「あんたさっき心配する人はいないって言ってたろ?
あんたがずっとここにいても、誰も気付かないよ。」
「さっき、こんないい場所に住みたいゆうてたな。」
おにぎりをくれたおじいさんもそう言ってじっと見つめている。
誰かがスカートを引っぱる。
さっきの子どもだ。
「お姉ちゃん、また遊ぼうって言ったよね?」
背中に無数の虫が這い上がってくるような、おぞましい感覚に襲われた。
恐怖だ。
今まで、見ないふり、気付かないふりをしていた、この街の異様さが、次々と頭に浮かぶ。
心配する家族がいるかどうかを何度も聞かれたのはなぜ?
街の人全員がずっと笑顔で誰一人他の感情を出さないのはなぜ?
今、街の人全員の視線が私に注がれているのはなぜ?!
(この街、変だ。)
すっかり夕日は沈み、辺りは闇が包みはじめていた。
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