『When it was hot』

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『俺も若い頃はよくここを使わせてもらった』 微苦笑する佐伯。久しぶりに通る連れ込み宿の雰囲気。だいぶ小奇麗になった印象はあるが、建物が錆び付いていた頃の面影はまだ残っている。目を細めて佐伯は回顧した。 黒服を着た男たちが何やら所在無さ気にうろついている。条例改正以後、キャッチ行為に規制がかかり、風営店の店員たちにいまいち活気が見られない。佐伯は店員がしつこく勧誘してきて辟易していた頃を懐かしく思うと同時に、新宿の街から猥雑さが抜け浄化していく事を、誰に対してでもなくどうしてか不憫に感じた。一方、佐伯の足取りはゴールデン街を過ぎると、自然と新宿花園神社に向かっていた。 『紅テントが張られた頃か。アングラ芝居をよくあいつと……』 佐伯は歩を止めた。ノスタルジィに浸っている。今、俺は阿久津との記憶をなぞっている。佐伯本人、その自覚が認められた。改めて散策する新宿は、実は青春時代を過ごした街。現在は職場がある街。だから今現在、俺はここにいる。仕事場がここにあるから。ただそれだけの理由で。佐伯はいつからかそう割り切っていた。だが、学生時代にも通っていた過去の事実は拭いきれない。     
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