『When it was hot』

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『俺は知らないうちに、大学時代の当時の、この街と生きていた思い出と決別したがっていたのか?』 それ以上自分を深く詮索する事はなかったが、不快な自己発見にあからさまな嫌悪感を佐伯は抱いた。自分自身の感情に妙に疲れる、と。一連の懐旧感は、阿久津からの手紙が端緒であるというのは容易に察することができるが、それにしても生々しく若い頃を思い起こす。それがまた佐伯の徒労感を増させた。 「…………」 佐伯は踵を返した。再び街に潜ろうとした。沈もうとした。何ら根拠のない行為だとしても。 その時、佐伯の携帯電話が鳴った。電話の相手は自宅にいる妻からだった。 「あ、お前か。スマン、スマン。連絡してなかったな。そうだな、今夜は……」 佐伯はしばらく言葉を溜めて、 「こっちに泊まっていくよ。いや、忙しいわけじゃないんだ。明日は休みだからみんなの付き合いでね。そう、そう。まあ、たまにだから。分かっている。適度に飲むよ。うん、血糖値だろ。分かっているって。気をつけるから。じゃあ、お休み。あ、洋子は帰っているか。いや、いい。ちゃんと帰っていればいい。うん、何でもないから。じゃあ、遅くても明日の昼には帰る。うん、それじゃあ」     
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