第一章 Let Me Be With You

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 機甲人形(アーマードール)という巨大な兵器に搭載された量子仕掛けの魂――あるいは、人形それ自身。  彼女たちは人形知能(デーモン)と呼ばれる自我と感情を持つ高度な人工知能(AI)だ。  最新鋭の量子頭脳を依代(ハード)とし、まるで人間さながらの情動を持つ彼女らは、もはや一つの人工生命(ALIFE)だとすら言われている。  戦場で常に肩を並べる操縦士たちにとって、彼女達の情動を生み出している入力が、内分泌系(ホルモン)なのか電気信号系(シグナル)なのか、出力が同じならば些細な違いでしかない。重要なのは信頼に足る存在か否か、それだけだ。 『軍規なんかより自己の防衛と操縦者の安全が第一だよ。この作戦、どう考えても人類の勝ち目は薄いんだ。真面目にやるだけ損じゃないかな』 「それでもこれが兵士の役目だ。お前も、本来の役目を忘れるな」 『ふーんだ。もちろんだよ』 「うぉッ!?」  レヴィアが拗ねた表情を浮かべたと同時、叩き付けるような重力が少年の全身に襲いかかる。急加速した機体が、地上から放たれた対空砲火を回避したのだ。 「いきなり加速するな! 舌を噛んだらどうする!?」 『そのときはボクもキミの後を追うよ』 「……ばか、そういう問題じゃない」  さらりと応えたレヴィアに、少年は額を押さえて呆れを示す。  彼女たちの人形知能(デーモン)という名前の由来は、悪魔(DEMON)からではなく守護神(DAEMON)の方だと言われている。しかし接している身からしてみれば、前者の方が適切だと思えた。  生半可な操縦士なら、加速の瞬間に意識を失っていただろう。〈リヴァイアサン〉の操縦士になってから既に三年。主導権という手綱を手放した代わりに、意識の手綱を握り締めることに決めていた。  〈リヴァイアサン〉に対空砲火を浴びせているのは、電子頭脳によって制御される無人兵器だ。量子頭脳によって制御される機甲人形と違い、自我や人格のようなものは持たない。だがその分、彼らは与えられた職務に忠実だ。  金属の甲殻と三対の脚部、角のように(そび)える頭部の高射砲。巨大な昆虫のような見た目から【甲虫型(かぶとがた)】と呼称されている。  操縦桿のスイッチを押し、〈リヴァイアサン〉の右手に引き金を引かせる。数百mの遙か下方、瓦礫と鉄屑に塗れた大地に、爆炎が一つ二つと鮮やかに花咲いた。
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