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機甲人形という巨大な兵器に搭載された量子仕掛けの魂――あるいは、人形それ自身。
彼女たちは人形知能と呼ばれる自我と感情を持つ高度な人工知能だ。
最新鋭の量子頭脳を依代とし、まるで人間さながらの情動を持つ彼女らは、もはや一つの人工生命だとすら言われている。
戦場で常に肩を並べる操縦士たちにとって、彼女達の情動を生み出している入力が、内分泌系なのか電気信号系なのか、出力が同じならば些細な違いでしかない。重要なのは信頼に足る存在か否か、それだけだ。
『軍規なんかより自己の防衛と操縦者の安全が第一だよ。この作戦、どう考えても人類の勝ち目は薄いんだ。真面目にやるだけ損じゃないかな』
「それでもこれが兵士の役目だ。お前も、本来の役目を忘れるな」
『ふーんだ。もちろんだよ』
「うぉッ!?」
レヴィアが拗ねた表情を浮かべたと同時、叩き付けるような重力が少年の全身に襲いかかる。急加速した機体が、地上から放たれた対空砲火を回避したのだ。
「いきなり加速するな! 舌を噛んだらどうする!?」
『そのときはボクもキミの後を追うよ』
「……ばか、そういう問題じゃない」
さらりと応えたレヴィアに、少年は額を押さえて呆れを示す。
彼女たちの人形知能という名前の由来は、悪魔からではなく守護神の方だと言われている。しかし接している身からしてみれば、前者の方が適切だと思えた。
生半可な操縦士なら、加速の瞬間に意識を失っていただろう。〈リヴァイアサン〉の操縦士になってから既に三年。主導権という手綱を手放した代わりに、意識の手綱を握り締めることに決めていた。
〈リヴァイアサン〉に対空砲火を浴びせているのは、電子頭脳によって制御される無人兵器だ。量子頭脳によって制御される機甲人形と違い、自我や人格のようなものは持たない。だがその分、彼らは与えられた職務に忠実だ。
金属の甲殻と三対の脚部、角のように聳える頭部の高射砲。巨大な昆虫のような見た目から【甲虫型】と呼称されている。
操縦桿のスイッチを押し、〈リヴァイアサン〉の右手に引き金を引かせる。数百mの遙か下方、瓦礫と鉄屑に塗れた大地に、爆炎が一つ二つと鮮やかに花咲いた。
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