第一章 Let Me Be With You

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『あ、マスター。前方に味方の地上部隊が居るよ。見える?』 「俺の目では無理だ。拡大してくれ」  要請に応じて、レヴィアはモニターに地上の光景を拡大して表示させる。映像の中では、数人の兵士が巨大なビルの残骸に身を隠すように小さくうずくまっていた。 「送電施設の破壊任務に就いていた部隊のようだ」 『かなり少数だね。本隊からはぐれたのかな?』 「いや、おそらくあれで全員だろう。かなり傷を負っている。大半はやられたんだ」 『ああ、そっか。人間って機甲人形(ボクたち)と違って(もろ)いもんね』  本来灰色をしているはずの都市迷彩柄の軍服は、赤色の方が目立つほど血で赤く染まっている。腕や脚を失った者も見える。あれでは撤退もままならないだろう。  周囲には対人戦闘に特化した【蠍型(さそりがた)】と呼ばれる機甲兵器の姿が見える。平たい小判状の体に三対の節足。前肢には(はさみ)の代わりに、人の胴ほどの太さをした機関砲が二門、尾には広い斜角を持つ大口径の対戦車砲が備え付けられている。  一機で歩兵中隊一個を肉片の山に変えられるほどの殺傷性能と言われている。  そんな殺戮兵器を相手にする地上部隊が手にしているのは、二十世紀以前に使われていたような骨董品まがいの旧式兵器ばかり。  五百年前、北アメリカの先住民族が十二丁のマスケットを手にした騎兵隊に棍棒(こんぼう)で挑みかかり、滅ぼされてしまった悲劇の再現だ。 『どうする、マスター?』 「……残弾にも燃料にも、それほど余裕は無い」 『彼らはボク達と違って片道切符しか持たされていないんだ。見なかったふりして放っておいた方が得策だよ』  機甲人形(アーマードール)一体の戦略的価値は、百人の兵士の命にも勝る。たった数人を助けるために、機体を危険に晒すのは決して利口な判断ではない。  遠くに見えていたはずの光景も、高速で飛行する機甲人形(アーマードール)には瞬きする間に通り過ぎてしまう。見なかったふりをするのは簡単だ。  少年は冷淡な表情のまま、感情のこもらない声でレヴィアに告げた。 <!-- 常用漢字ではないのでひらく --> 「レヴィア、味方の退路を確保するぞ」 『えっ、本気なの!?』 「できる限り短時間で、無駄弾を一切使わずに敵を排除する。それでいいな?」 『やだ、よくない』
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