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嫌がるレヴィアを無視して、少年は操縦桿を操作して機体の進路を味方部隊の方角へと向ける。
外敵の接近に気付いた甲虫型の自走砲たちは、次々と三対の脚を蠢かせながら機体の角度を変え、角のように聳える高射砲を〈リヴァイアサン〉へと向け始めた。
『キミのそういうところ、ボクには理解できないよ』
「俺にはこうすることでしか、自分が人類の一部だと実感できないんだ……どうしても気が進まないなら、機体の推力を止めてもいい」
『呆れてるだけだよ。君もまだ、安っぽい人道主義なんて持ってたんだなって』
自走砲の背中にある羽根のような装甲が、突如として左右に開く。だが巨大な重量を持つ彼らに、本物の甲虫のように羽ばたき飛行する能力はない。
甲殻の内側から姿を現したのは、蜂の巣のように多量の発射口を密集させた地対空ミサイルの発射装置だった。
過度のGを全身に受けながら、少年は余裕のある態度でレヴィアに問いかける。
「人形には、信じる神や主義はないのか?」
『分かりきったこと聞かないでよ。ボクが信じるのはいつもキミだけだよ、マスター』
「……可愛げのあることも言えたんだな」
『ひどいなあ。ボクはいつだって、キミの可愛い人形だよ』
自走砲台から、大量のミサイルが放たれる。まるで綿毛が開くように四方八方へと糸状の噴煙が白く放射状に広がっていく。
円筒状の外殻に破壊と殺戮を詰め込んだ無数のミサイル群。その真っ只中に、少年は地表すれすれまで機体を降下させて飛び込ませる。
『ミサイル接近。数はえっと、たぶん百ぐらい?』
「上昇と同時にプラズマフレア散布、照準は任せる」
『量子妨害は?』
「演算容量の無駄だ。軌道予測に回せ」
『見くびらないでよ。両方やれる』
放射状に広がるミサイルが、〈リヴァイアサン〉の機体目がけ一点へ収束していく。
大きく広げられた死が口を閉じる瞬間、少年は操縦桿を引いて機体を直角に近い角度で急上昇させた。
同時に、機体の肩口から放たれた、青白く輝くプラズマの粒子が鱗粉のように舞い散る。
地表の瓦礫を避けきれず衝突したもの、プラズマのフレアに阻まれて暴発してしまったもの。放たれた大量のミサイルは、次々と機体の後方に爆炎の花を咲かせていく。
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