第一章 Let Me Be With You

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 自走砲台の防空網を軽々と飛び越した〈リヴァイアサン〉は、その先に見える蠍型の多脚戦車へ右手に握った対戦車ライフルの照準を定める。  砲声が六回、遅れて爆音が六つ。 「まだ一体残ってる!」 『大丈夫だよ。弾はまだあるからね』  レヴィアは何気ない口調で言うと、多脚戦車へ弾の尽きたライフルを高高度から思い切り投げつけ、極めて原始的な手段で最後の一体を破壊した。  絶望的な包囲状態から一転、まさしく瞬く間に命を救われた地上部隊の兵士達が、手に持った銃や擲弾筒(てきだんとう)を軍旗のように振りかざしながら、上空の彼らへ向けて声援を送る。 『助かった! 〈七つの大罪(セブン・フォール)〉の〈リヴァイアサン〉だ!!』 『〈蛇遣い(アスクレピオス)〉!! あんたこそ本物の英雄だ!!』 『仲間達の仇を取ってくれ、頼んだぞーッ!!』  機体外部の集音マイクを通して届く兵士達が上げる歓喜の声と熱い応援。  少年はどこか気恥ずかしそうに顔を(しか)めながら、その声を受け止める。 『何か声をかけてあげたらどうだい、英雄さん?』 「そういうのは苦手だ。お前が手でも振っておいてくれ」 『ふーん。まあ、別に良いけど』  機体の右手を振って愛想良く地上部隊の声に応えながら、レヴィアは拗ねた声で言う。 『大人気だね。さすがは〈蛇遣い(アスクレピオス)〉、羨ましいことだ』  そんな機体の声を受け取って、少年は真面目な口調になって言葉を返した。 「それは違う、レヴィア。〈蛇遣い(アスクレピオス)〉は俺だけの名前じゃない。俺達二人の名前だ」 『……ありがとう、マスター。ボクのためにそんな恥ずかしい台詞を言ってくれて』 「う、うるさい!! 余計なことは言わなくていい!」 『あー悔しいなあ。こういうとき涙が流せたら、この喜びを伝えられるのに』  レヴィアの悪戯(いたずら)っぽい言葉に不満の色を(あらわ)にしながら、少年は地上部隊の姿を後方に残して再び機体を加速させ始める。  片や骨董品まがいの兵器を手に、敵うはずのない機甲兵器に立ち向かう地上の兵士達。そして片や虫を駆除するように機甲兵器を圧倒する機甲人形(アーマードール)と、機体を自在に操る操縦士という、時代の断層に隔てられた二つの兵器が同居する異様な戦場。  その(いびつ)な戦場の姿を生み出したのは、彼らが戦っている姿無き〝敵〟の存在によるものだった。
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