先生は語る

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「小町ちゃんは、先生に手紙を渡した後に断られたら一つのことを行っていたの」 「一つのこと?」 「ええ」  楽しそうに先生は語っていく。  そして、とびきりの秘密を教えるように。 「小町ちゃんはね。その断られた日の夜に手紙を燃やして灰にしていたの。その桜の木の下で」 「……燃やす……って」  想像してみる。  快活で明るい誰からも愛される少女。そんな子が、夜中に桜の木の下で手紙に火をつけて灰にしている姿を。  その表情は、想像している私の小町は無表情で何も写していなかった。  まだ寒くもないのに、肩が震えてしまう。 「それだけの話なんだけども、そこも伝わってるのよ。『思いを伝えられなかったら、桜の木の下に思いを書いた手紙を燃やして灰を撒く』っていう風に」 「また、随分と形が変わりましたね」 「噂っていうのはね、さっきも言ったけど形を変えていくわ。やりやすいように、納得しやすいように。今でも、実はよく灰を撒いている子はいるのよ。恋する子に伝わる話だから誰かしらが常に教えてるんでしょうね」  ……それが、どのくらい前から伝わっているのか。毎年のように灰は積み重なっていく。  冷静に考えれば灰はすぐに飛んでいってしまうだろう。手紙を燃やした程度の灰の量がなにか影響を及ぼすはずがない。  でも……なんだろう……。 「……小町という少女が、どうやって先生を射止めたんでしょうね」 「え?」  話は戻る。それも、一番おぞましい部分に。 「三年もの間、小町という少女は一人の男を思い続けた。決して叶わぬ恋を叶えるために。どれだけ、自分を変えたのでしょうね。どれだけ、その先生との可能性を掴むために動いたんでしょうね」 「……」 「毎年、伝えた思いを燃やすのは自分との決別なのでしょうね。だめだった自分の思いを燃やして、その次の自分の思いに。それを続けて、続けて。続けていって最後には叶えてしまった初恋」  ……それはもはや恋ではなく。 「先生……その、小町はどうなったんですか」  恋でもなく、愛でもない。  それ以上におぞましいナニカにしか思えない。その小町は……。  いったい、どんな結末を迎えるのだろうか。
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