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「……ふふっ、ごめんなさい。そこからは興味がなくて調べてないの」
「えっ?」
「追いかけるのも大変だったしね。私が調べたのは学園で収まった話だけ。ね? ちょっとは面白かったかしら。あの桜一本にしても色々な……それこそ、思いもよらないエピソードがあるものよね」
そう言って柔らかく微笑む。
そして、この昔話はおしまいとばかりに先生は栞を外して本の続きを読み始める。
これはいつも会話の終わり。先生が本を読むときは、その話は終わりなのだ。
「……」
なんだろう。
本当に、ここで終わりなのだろうか?
私でも、この先が気になるのに。桜を掘り返してまで調べる先生が調べていないわけが……
「~♪」
小声で歌いながら本を読む先生は楽しげで。
……最初に、私がこういった話は好きではないという表情を出した。その表情を見て、先生は敢えてこの話を最後まで私に伝えないようにしたのじゃないだろうか。
もしくは、本当に興味がなかったのか。どちらかはわからない。
でも、先生に聞いても決して答えてくれないだろう。そう、この話はここで終わりだ。
「……謎は謎のままかぁ」
……最初に言った、先生の言葉。
『――あの桜には、恋が埋まっている』
どういう意味なのだろうかと考えて、ふと分かった気がした。
燃やして、灰にした手紙。その思いは初恋の死体だ。数えきれない恋が、恋のままに燃やされて死んだ恋があの桜の木の下には眠っている。
それはもはや呪いとでも呼ぶべき怨念になっているであろうそれは、未だに少女たちの恋を引き寄せ続ける。
――成就する恋は、幸福なのだろうか? わからない。しかし、これ以上調べる気はない。気になるが、私の好きな話ではないから。
「……ああ、そうそう」
「先生? なんですか?」
驚いた。本を読んでいるのに思い出した様に声をかけてくるのは。
それこそ、最初のような悪戯げな顔を浮かべて……嘘か本当か。
「あの桜を掘り返した時、地面が凄く柔らかかったの。それこそ、灰だけで出来てるみたいに」
……それだけを言って、先生は本に戻った。
意地の悪い先生だ。でも、何となく私の中で答えは出た。
――あの桜の木の下には、恋が埋まっている。
少女たちの叶わぬ恋の死体が、数え切れない程に埋まって咲き誇る桜なのだ。
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