2 . ハジマリ

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2 . ハジマリ

 外の賑やかな音が漏れ聞こえるのを耳に入れながら、ハクは百合の香りを抱いていた。  腕の中の温もりを優しく包み込み、あの日、屋上で聞いたカイの言葉を思い出す。カイは幼い頃からいつも難しいことを考えている。ノアに居る頃もユネクへ来てからも、ハクは多くの人と言葉を交わしてきたが、カイのように自分たちの存在やイスへの疑念や不安を口にする者には出会ったことがなかった。正直に言って、カイの言葉は時折ハクにも上手く理解できないことがある。言語の情報処理として理解はできていても、共感や納得に至ることが無いという感覚が正しいかもしれないそれを覚える度に、ハクはカイのことを凄いと感じるし、同時になんとなく寂しいような、どことなくもどかしい気持ちに支配されてしまうのだった。  カイは、時折この町のことをブロックと呼び、自分たちの性格のことをプログラムと同じだと表現する。それは決して間違いではないし、寧ろそれこそが正確な言い回しであるということはハクもきちんと理解しているけれど、そうしたカイの発言を耳にする度に、ハクは一瞬緊張するのを自身で感じ取っていた。恐らくそれは、カイのその言葉の裏に、他の人たちには無い何かを感じるからなのだろう。そして、その何かが蓄積していくことは決して良いことではないということも、なんとなくではあるがハクは確りと感じ取っていた。その先に何があるのかは分からないけれど、カイの言葉に心が緊張する感覚は、ハクにとって決して気持ちの良いものではない。 「ハク、何考えてるの?」  女の声に、ハクは意識を引き戻される。淡い茶色の髪を持つ女はくすりと笑み、「好きな子でもいるの?」なんて茶化してみせた。ハクの頬を撫で、そっと頬へキスをする。それはまるで幼児にするおやすみのキスのように、慈愛に満ちて穏やかなものだ。
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