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カイの眼前に立つ少年は、このブロックでは珍しい黒い髪をしている。他のブロックの様子を知っている訳ではないのだから本当の意味での比較はできやしないとカイは思っているけれど、とにかくこのハクという少年の持つ濡羽色は白い世界の中で一際目立ち、行き交う人々の目を自然と惹き付けてしまうほどに美しいものであるということだけは確かなことだった。
尤も、人の目を惹く要因はその色だけではなく、ハクはその色を除いても確かに美しい少年だった。少年の無邪気さを持ち合わせつつ、万人に造形美というものを感じさせる容姿。ゼットが生み出した生命体の中でも特に成功した形なのではないかと囁く者もいて、それを聞いたカイが反論しようとも思えないほどには、ハクは色々なものすべてが整っていた。
二人は幼い頃から共に過ごし、中央区ノアの施設に居る頃からずっと一緒に育ってきた。どこに居てもハクは目立ち、同時にたくさんの人に囲まれて笑っていたことをカイは記憶している。寝食を共にし、共に学び、他の子どもたちと一緒にこのユネクへやってきてからも、ハクは、何も変わらない。そんな彼の美しさを際立たせるようにつやつやと光る濃密な濡羽色を見ていると、カイには時折、この世界の色はすべてハクの為にあるのではないかと思えてしまうことさえあった。この世界に存在するすべての色を集めて凝縮したものがあの艶めきなのではなかろうかと考えて、それじゃあまるでハクは神様じゃないかと、勝手な期待を膨らませては一気に打ち壊すといったことを、カイはこれまでに何度も何度も繰り返していた。
「何してた?」
「いや……別に」
ふぅん? とハクが首を捻って笑う。大人びても見えるのにやっぱり少年らしさを併せ持つその表情に、カイはなぜかいつもほっとする。ハクの不思議な魅力を含めても尚、彼が神様でも何でもない普通の少年だということは、ユネクに住む他の誰よりもカイが一番、よく知っているつもりだった。
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