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男の腕の中で、彼の持つその色がこの部屋の中だけではなくこの町のどんな景色にもよく映えるということを、女はきちんと分かっていた。男の腕の中に身を委ねながらも、男が紡ぐ言葉以上に、女には理解していることが沢山あったのだ。色素の薄い睫毛をゆっくりと伏せて小さく笑う。ウェーブがかった女の髪からは、ほんの少しつんとした百合の花のような香りが漂った。
「あなたって、本当に生意気ね」
色香を纏う女の声に、男は笑って肩を竦める。「光栄だな」なんていう戯れに、女は形の良い眉をほんの少し潜めて笑った。まだ成熟しきっていないように見える男の背中へと腕を回して、そっと額を胸に埋めるようにその温もりを確かめる。
「……可愛くないわ。本当に」
「酷いなぁ。俺はちゃんと、生まれたときから愛情ってやつを知ってるってことだよ」
「そんなことを言うの、きっとあなたくらいよ?」
「当たり前じゃないか。俺は俺でしかないんだからね」
穏やかに答える男の髪は濡羽色に艶めく。月のような金の瞳は悪戯に細められ、その不思議な色に、女は今確かに魅了されていた。
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