strange side

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午後0時40分 河川敷のベンチに腰を降ろし、紫煙を潜らせる。 春のざわめきが風に乗って、私の耳を悪戯にくすぐってゆくのを感じながらも、それを甘んじて享受し身を委ねる。 大きく吸い込んだ紫煙に春の香りが混じり込む。 笑いが込み上げてくる。 春の香りがどうゆう物なのか知らないし、感じた事など一度も無いのだから、何をもって『春の香り』と思ったのだろうか? 錯覚だろう・・・ 笑わずにはいられない。 煙草を携帯灰皿に押し込み立ち上がる。 河川の傍で 蒼天のまどろみで 桜の木の下で 春の香りを知る人達が、思い思いに『春』を満喫している。 それはまるで、私を拒絶するかの様に。 ふと、右足に違和感を感じる。 見下ろすと、小さな子供がしがみついていた。 それと同時に、ビデオカメラを片手に謝罪しながら駆け寄ってくる若い男女。 もう一度視線を落とすと、満面の笑顔で私を見上げる大きな瞳があった。 「何歳ですか?」 何故聞いた? 私には関係の無い事だろ? 「もうすぐ二歳なんです。」 「可愛いですね。河川の近くとか自転車には気を付けて下さいね。今日は特に人が多いですから。」 「ありがとうございます。」 そう言って笑顔で子供を抱え、『春』の下に戻っていった。 春の香りを私に残して・・・ 私は自転車にまたがり、ペダルに想いを伝えながら加速していく。 春の風を感じる様に加速する 季節が移り変わる様に加速する 自分が変われる様に加速する その時、少し強い風が木々を揺らした。 散り逝く春を後押しする様に、桜の花弁を強引に舞い踊らせて歓喜の声を誘う。 歓喜のハーモニーの中を 春の吹雪の中を 力一杯駆け抜けながら・・・ 呟いた。 こんな日も悪くない・・・ と。 【strange side  完 】
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