霧の猫

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一度だけ、後をつけてみたことがある。霧の中をゆっくりと、しかし目的地がわかっているかのように、しっかりした足取りで歩いてゆくジェリー。 仁美の方は、霧で視界が遮られているうえ、猫と違って勝手に他人の庭に入ることはできないから、迂回したり先回りしようと道順を考えているうちに猫を見失ってしまった。諦めて自宅に戻ろうとしたが、霧の中をぐるぐると同じ道を回るばかり。 近所のはずなのに、まるで知らない街のようだと仁美は思った。やがて霧が薄くなり、夢のように消えてしまってから、やっと自宅へ戻ることができた。 今朝も濃い霧の中をジェリーはピンと尻尾を立てて出かけて行った。そして夕方になり、何事も無かったかのように帰ってきたジェリー。 「お帰りジェリー。今日はどこに行ってきたのかな。あれ、これは何だろう?」
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