血桜

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これは、気障が過ぎると爆破する男の話。 ※ 伊豆へ行けば、川端康成を語り。城崎へ行けば、志賀直哉を語る僕だから。桜の木の下に立てば、梶井基次郎を語るのが自然な流れで。 「梶井基次郎の『桜の樹の下には』って短編知ってる?」 お花見デートの先に、あわよくば真剣交際を望む彼女にさり気なく聞いてみた。 「ごめん、私あんまり本読まないの。」 気恥ずかしそうに微笑う彼女の頬が白桃色に染まる。思わず触れそうになった。下手に知識を背伸びする女性より、寧ろ上品でどこか艶っぽかった。 「じゃあ、内容について話してもいい?読む予定ある?」 「今のところないから、話していいよ?」 僕は声色を一段落として話し出す。なるべく理知的に、魅力的に、彼女の心に染み入るように。 「まず、その短編の書き出しなんだけどさ? 『冬ながら 空より花の散りくるは 雲のあなたは 春にやあるらむ』 って和歌から始まるの。古今和歌集に収録された和歌なんだけどね。 『まだ冬なのに空から花が散ってくるのは、もしかして雲の向こうはもう春なのかな?』 ってな意味合いでさ。雪を素敵に、桜に見立てた和歌なんだけど。
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